少し大きい文字文字色 男性の加齢とともに前立腺が肥大し、排尿障害をおこす疾患。古典的には尿道に近い内腺とよばれる部分から発生する良性の腫瘍(しゅよう)と考えられていたが、現在では前立腺の内腺とか外腺という概念は解剖学的にも生理学的にも存在せず、膀胱頸部(ぼうこうけいぶ)下腺の異常増殖症と解釈されている。病理学的にはこの部の上皮性成分が筋線維性間質の増生を伴って異常増殖する現象で、尿道を圧迫し、膀胱の頸部から内面に突出する結果、排尿困難がおこる。一方、肥大した組織塊によって正常前立腺部は外側方の被膜下に圧迫され、ほとんど認識されない程度に薄くなり、肥大組織が大きな腫瘤(しゅりゅう)に発達する。
原因は明らかにされていないが、加齢による内分泌環境、とくに男性ホルモンと女性ホルモンのバランスの異常が重要な役割を演じていると理解される。このほか、過度の性生活や前立腺の充血をきたすような食生活、排尿に関する習慣など、種々の要因が関係する。
臨床的に証明されるか、あるいは自覚症状が発現するのは60歳以後に多いが、実際の病変の病理学的異常は40歳代の後半に始まり、徐々に進行している。したがって、病態の進行と自覚症状とはかならずしも並行しない。本来、欧米人に多く、東洋人には少ないとされていたが、日本でも高年齢層の増加に伴い高頻度にみられるようになった。症状としては、夜間頻尿、残尿感、尿線細小のほか、排尿しようと構えてもなかなかスタートしない遷延性排尿や、排尿が始まってもだらだらといつまでも終わらない苒延(ぜんえん)性排尿がみられる。この時期を第一期という。次に膀胱内に残尿が増し、ついに尿がたまったまま出ない状態、すなわち尿閉を繰り返す。この状態を第二期という。さらに進行すると、腎(じん)機能が障害されて第三期となり、尿毒症をおこす。
診断は前立腺癌(がん)と同様、まず直腸診による触診で肥大した腺腫を触知することである。正常では栗(くり)の実大といわれる前立腺が、鶏卵大以上に肥大する。表面は平滑で弾力性があり、硬結は触れない。圧痛はほとんどなく、腎機能に障害がある場合は腎部に叩打(こうだ)痛が出現する。
臨床検査では、残尿に尿路感染症を合併すれば白血球や細菌が証明される。ときに血尿をみることもある。血液所見では、腎機能が障害されている場合は血液尿素窒素(BUN)やクレアチニン値が上昇する。確定診断は、内視鏡(パンエンドスコープpanendoscope)を尿道より挿入し、前立腺部尿道の延長、閉塞(へいそく)の程度を観察する。超音波エコー、CTスキャンは鑑別診断のために重要である。
手術療法として、膀胱内から肥大した前立腺を摘出する恥骨上前立腺核出術、恥骨の後方から直接前立腺に達する恥骨後前立腺核出術、会陰(えいん)部を切開する会陰式前立腺核出術などが行われてきたが、もっとも普及し一般的となっている方法は経尿道的切除術(TUR)である。これは、尿道より切除鏡を挿入し、これについている電気メスによって肥大した組織を細片に切除し、これをエバキュエータ(吸引器)で体外に洗い流すものである。TURはファイバースコープの進歩などにより、きわめて安全確実な手術方法となった。冷凍手術は、肥大の部分を超低温にして壊死(えし)に陥らせ脱落させる方法であるが、適応は限られる。前立腺癌を合併する症例も少なくないが、その場合の治療は複雑となる。前立腺肥大症の治療成績はきわめて良好であるが、一般に術後は膀胱のほうに逆行性射精をおこすことが考えられる。これは内括約筋が弛緩(しかん)した状態にあるためである。
前立腺肥大症を予防する実用的方法はみいだされていない。また、肥大症に直接作用して縮小させる薬物もまだない。なお、日常生活上の注意としては、大量の飲酒、座位で長く排尿をがまんすること、冷えることは症状を悪化させる。
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